あの世からこんにちは!

<登場人物>司会者、海原ご夫婦、我が子を亡くした母、父親の財産のありかを知りたい息子他

 最近、巷では「行列のできる何々」という言葉が良く聞かれます。最初に聞いたのは確か「行列のできるラーメン店」だったでしょうか?その内「行列のできる法律相談所」という番組が生まれたりして、高い視聴率を取っていらっしゃいます。私などは、生来怠け者でして、「二時間も三時間も待つくらいなら、帰って寝よ」と思ってしまうタイプなんですが、皆様なら、行列作ってでも待ちたいと思われるものは何でしょうか?ディズニーランドやUSJの乗り物?やはり人気がございますねえ。 もう三十五年前になりますか。大阪で万博が開かれましたの。
アポロ十一号が月から持ち帰った石・・連日の行列だったと聞いております。人間、未知なるモノには飽くなき好奇心を抱くものなんでございましょう。
 未知なるものと言えば「あの世」が、その代表でございます。昔からあの世を見物して、この世に戻ってきたなんて人があちこちにいらっしゃいますが、一般の方はそうそう体験できることではございません。でも今は、地球の裏側の人ともテレビ電話でお話しできる時代ですから、その内、あの世の人とおしゃべりできるテレビも発明されてゆくでしょう。
 亡くなった愛する人にもう一度会いたい!この落語は、そういう時代が到来した時のお話でございます。
   
オジソン:ドクター松下!見てください。ようやく完成しました!
ドクター:(大阪弁調で)そうか、完成したか。ようやったオジソン君。
      これで又、大阪から産まれた発明が世にでるぞ。
         大阪人は昔からパイオニア精神があるさかいなあ。
      二十一世紀には、大阪のおっちゃんが「まいど一号」ちゅう
      人工衛星を打ち上げたんやで。                   
オジソン:そうでしたねえ。                                 
ドクター:あれっ、助手のベルル君は?               
オジソン:昨日は徹夜でしたから、隣の部屋で休んでもらってます。
ドクター:そうか。彼も良うやってくれた。ほんまにありがとう。
         日本には「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがあってなあ。
    昔インドに文殊菩薩というメチャクチャ頭の切れる方がおられたんや。
    日本では受験や学問の神様と して信仰を集めてきた方や。  
                 
         そやけど、私、ドクター松下。そしてオジソン君。ベルル君。三人の
    発明の天才が集まれば不可能な事はないと信じてたんや。
    いやー、そうか。とうとう出来たか。霊界通信テレビが・・ワシらの
    十五年の血と汗と涙の結晶や!早速、見せてんか。 
                          
オジソン:ドクター、これです。                             
ドクター:(テレビの枠を撫でながら)おお、この液晶画面に、 
          亡くなった父や母が映るんやな。早う見てみたいもんや。
          ところで、これは何インチの大きさの画面や?       
オジソン:一七インチです。                                 
ドクター:もっと大型にはできへんのか?                     
オジソン:それも考えたんですが、画面に映るのが幽霊なもんで、
           あまり大きくすると、ぼやけて見えなくなるんです。 
ドクター:それもそやな。ほな早速画面に映してくれるか。     
オジソン:それではこのボタンを押して、ドクターの親類縁者の方、
          おひとりのお名前とご命日を入力してください。     
                ピッポパポピポポ                 
オジソン:どなたでいらっしゃいますか?                     
ドクター:わしの母親や。わしを女手ひとつで育ててくれたんや。
          実はな、わしは父親の顔を知らんのや。
        (冬のソナタの主題歌を流す)
     父親のことを聞くと母が悲 しそうな顔をするよって、どこの
     どんな人か、詳しいこ とも聞かんと今日まできたんや。    
オジソン:何だか二十一世紀に流行ったという韓国ドラマ
     「冬のソナタ」の主人公みたいですね。                     
ドクター:そやけど、母に死なれると、無性に父親のことが気に
     かかってなあ。
オジソン:あっ、ドクター、御母様が画面に現れました。       
ドクター:(テレビを両手に持って)あっ、ママーー           
オジソン:マ、ママって!ドクターは御母様のことをママと呼ばれて
     たんですか?                                   
ドクター:ほっといてくれ。ママー、ボク、ママが死んでからさみしかった。
     パパの名前も教えてくれずに、あの世に行ってしまう
     やなんて・・       
ドクター母:すまなかったね。私が何も言わずに・・でも、それを
     明かしてしまうと、あちこちに迷惑がかかるからだったんだよ。
     でも、こちらの世界に来て、お前のパパにも会えた。
     もう、名前を教えてあげてもいいだろう。       
ドクター:ママ、ボクのパパは誰やの?                     
ドクター母:お前のパパはね・・                               
ドクター:ウン                                             
ドクター母:お前のパパはね・・                               
             ザザザーーザザザー                  
オジソン:ドクター、通信が途切れました。                   
ドクター:何やねん!折角、父親の名前が聞けると思うたのに・・
          ほんまにどんならんなあ。オジソン君。将来は、世界中の人が
     行列を作ってあの世の人に会いにくるんや。   
          もっと、通信時間が長うなるように、早速改良や!   
   
司会者: 全国の皆様、お元気にお過ごしですか?
     今週もまた「あの世からこんにちは」の時間がやって参りました。
     ああ、懐かしいあの人は、今どうしているのでしょう?
     今週も、 あの世のスタジオと、こちらのスタジオを衛星中継で
     結 び、今世紀最大の発明!霊界通信テレビによる涙涙の
     再会のドラマをお届けしたいと思います。先週までは、各界の
     有名人の方にご登場いただいておりました。
     20世紀のスターの美空ひばりさん、
     天国ドームを満杯にするコンサートの様子を伝えてくださいました。 
       
         さて、今週からは、お待ちかね!視聴者の皆様に、ご登場いただ
     きます。全国から4万5千通ものお申し込みがござい
         ましたが、厳正なる抽選の結果、本日は三名の方を選ばせて
     いただきました。なお、この番組は「あの世からこんにちは」という
     名前ではございますが、収録は真夜中の2時に行っております。
     何しろ、ご登場いただくのが幽霊の皆様でいらっしゃいますので、
     やはり丑三つ時がいいとのこと、ご家族の皆様にも、このような
         時間にお越しいただき、誠に申し訳ございません。   
         それでは、最初の方にご登場いただきましょう。大阪府に
     お住まいの・・ええーっとこれは海水浴の海に原っ ぱの原と書いて
     ウナバラさんとお読みするんでしょうか?それでは海原さん。
     こちらへどうぞ。海原さんの奥様は、このかわいいお嬢ちゃんを
     お産みになった後、まもなくお亡くなりになられました。もう本当に
     明るくて漫才師にもなれそうな方だったそうですね。         
海原夫 :ハイ、病気ひとつしたことのない、いっつも冗談言うて
         笑ってばかりいた妻でした。ウウ・・それが、まさかこの子を
    産んですぐに死んでしまうやなんて・・ウウウウ 
                                                  
司会者:大丈夫ですか。もうすぐ奥様に会えますからね。     
         それでは、奥様のお名前とご命日をご入力くださいませ。  
    あ、画面にだんだん人の顔のようなものが映ってまいりました。
    あと、30秒ほどでハッキリと映ると思いますので、
    もうしばらくお待ち下さいませ。     
         あ、何かメガネのようなものが見えて参りましたが、奥様は
    生前、メガネをかけておられましたか?         
海原夫:ハイ、大きな黒縁のメガネをかけておりました。     
          あっ、家内です。鯛子ー鯛子ー。そっちから
     わしらが見えるかー?                                       
司会者:あのお、奥様は「海原鯛子」さんとおっしゃるんですか?
          あの海で泳いでいる鯛という字の鯛子さん、
     珍しいお名前でいらっしゃいますね。                         
海原夫:そうでんねん。実はね、海原家の17代前のご先祖様が
         家訓を遺しはったんですわ。                       
          その一「海原家の子孫には、海に関係する名前を
          付けるべし」                                       
         その二「嫁をもらう時には、海に関係する名前の女性
               を探すべし」ちゅうてね。                       
        ウチの親父は海原鯖二郎言いまんねん。で、お袋が海原
        ワカメ。ほいで、ワテの名前が海原海老蔵言いまんねん。
        家内が鯛子でっしゃろ。そやから親戚中から「海老で鯛
        を釣ったなあ」と冷やかされましたわ。ハハハ。おーい、
        鯛子。元気にしてたかー?                         
海原鯛子:あんた。ひさしぶりやなあ。
       おじいちゃんもおばあちゃんも元気にしてはる?  
                           
海原夫:みんな元気やで。お前が死んで、もう一年たったんやなあ。
      毎日何して暮らしてんねん?                   
海原鯛子:こっちに来てすぐはね。学校入って「あの世での生活の
          仕方」を勉強しててん。何しろ天国では、夜ちゅうもん
          がないさかい、調子狂いまっせ。お日さんが沈みません
          のよ。それに乗り物もないから、自分で空飛ばんとあか
          んし・・先生にいろいろ教えてもろうてね、この間、
     無事卒業したとこ。そやから、卒業旅行でディズニー
     パラダイスちゅうとこに遊びに行ってん。それから、週末に
          は友達と蓮の池クルーズに繰り出したり、うん、楽しい
          やってるわ。                                     
海原夫:そうか、そら良かった良かった。そや、そっちから見え
          るか。この子やで。お前が産んだん。かえらしい女の子
          に育ったやろ。                                   
海原鯛子:いや、ほんま、(涙ぐんで)私に似てかえらしいわ。 
           で、名前は何て付けてくれたん?                   
海原夫 :そやねん。名前何にしようか思うて、いろいろ考えてん
          けどな。鯛子の子で女の子、鯛子の子で女の子って考え
          てたら、ええ名前がやっと見つかったで。           
海原鯛子:良かった、で、何て名前?                         
海原夫:明太子 
      ((注)これがクイズの答えです。)
                                      
海原鯛子:め、めんたいこ!もっと他に何かなかったんかいな。 
          めんたいこは海に関係するかも知れへんけどねえ、
     たらこを唐辛子で漬けたもんやがな。海で生活する
     生き物とちゃうやんか!                                   
海原夫:そやかて、「めんたいこ、めんたいこ」て呼ぶたんびに、
     お前の事も思い出してあげとうてなあ。                       
海原鯛子:それにねえ、女の子の名前付ける時には、よっぽど気い
           付けんとあかんの知ってるのん?もし、まきちゃんが、
          原さんとこに嫁に行ったらどうなるのん。ハラマキやで。
          まりちゃんが、小田さんと結婚したらオダマリや。水田
          さんやったらミズタマリや。あんたねえ、めんたいこや
          なんて、岸さんとこに嫁に行ったらどうするのん?   
          ほんまにもう。私、二〇年後にこの子の子どもになって、
          もう一度生まれてこよう思うてんのに、お母ちゃんの
     名前が、きしめんたいこなんて、いややわ。           
海原夫 :そやけど、もう役所に届けてしもうたし・・         
海原鯛子:何で、もっと早う私に相談してくれへんかったん?   
海原夫:そやかて、霊界通信テレビが発明されたん、半年前やで。
          この番組が始まったんが、つい、2ヶ月前や。この番組
          に出られただけでも、競争率1万5千倍やねんで、お前。
司会者:まあまあ、全国の皆様の前で夫婦げんかなさらなくても
          ・・実は、ちょっと奥様にお聞きしたいことがあるので
           すが、宜しいでしょうか?                         
海原鯛子:何ですのん?                                     
司会者:あのお、三途の川を渡られた時は、渡し賃は、やはり 
          三五の15円お支払いになられたんですか?         
          いえね、上方落語※で渡し賃は死亡理由で決まるみたいな
          ことをちらっと聞きましたので・・  
        (※地獄八景亡者の戯れ)               
海原鯛子:はあはあ、私も生前聞きましたわ、あの落語。おもろい
         でんな。たばこの吸いすぎで死んだらパッパ(88)64文、
     下痢で死んだらピチピチ(77)49文、私みたいに
     産後の肥立ちが悪うて死んだら、三五の15文か払
          う言うやつでっしゃろ。ウフッ。あの話、私大好きでし
          てん。誰やろねえ、あんな奇想天外な落語創ったの? 
          けどねえ、今は、世界がひとつになろうか言うグローバ
          ル化の時代でっせ。全世界的に三途の川の渡し賃は、
     一律10ドルやて決められてますの。と言うても、私ら円
         で生活してまっさかい、船着き場の電光掲示板に表示さ
         れる為替レートを毎日見るんですわ。それで、一ドル=
         105円やったら1050円やなと計算するんです。 
司会者:えっ、1050円も払うんですか?                 
海原鯛子:そう、時々、船から落っこちる人もいまっさかい、災害
         保険料も入ってますねん。そやからね、明日になったら、
         もっと円高になる思う人は、次の日まで待つんです。 
         もし、一ドル=100円になったら、50円安うなりま
         っさかいなあ。ちょっとでも安い時に渡りたい言う方の
         ために、ホテルも立ってますのよ。最大手でチェーン展
         開してるのが、三途リバーサイドホテル。日本風が良け
         れば、国際観光旅館三途本館、別館もありまっせ。
    「そ んなに急いであの世に行くこともないわい」思うてる人
         は、何日か滞在して、あちこち観光してはりますわ。 
司会者:三途の川縁はまだ、あの世じゃないんですか?       
海原鯛子:そうそう、時々「お前はまだ早い」言われて生き返る人
         がいますやろ。三途の川を向こうまで渡らんことには、
         ほんまのあの世と違うんですわ。                   
司会者:そしたら、そこはどのように呼ばれているんでしょう?
海原鯛子:その世                                           
司会者 :えっ?                                           
海原鯛子:そやから「その世」でんがな。まあ、きれいな花園が
   三途の川岸にずーっと広がってましてねえ。皆さん、花園
        を眺めながら散歩したり、ドライブしたりして観光を楽
        しんでますわ。あ、レンタサイクルもあるんでっせ。 
司会者:へえ、そうなんですか。                           
海原鯛子:それから、ドライブより、釣りの方が好き言う方のため
         に、貸し釣り具屋さんもありますのよ。             
司会者:えっ、三途の川に魚が泳いでるんですか?たとえば、
     どんな魚が釣れるんですかねえ?                     
海原鯛子:ふなです。                                       
司会者:ふなだけですか?きれいな鯉なんかも泳いでるんと違い
         ますか?                                         
海原鯛子:三途の川には、ふなしかおりません。               
司会者 :そらまた、どういうわけで?                       
海原鯛子:三途の川は「ふな旅」が一番なんちゃって・・       
         でもねえ、みんながみんな、船に乗れるわけやないこと、
         知ってはりました?何年か前に、一ドル100円を切っ
         たことありましたでしょ。私が死んだん、ちょうどその
         時でねえ。そしたら、川縁にいた人が、我も我もと渡し
         場に殺到したんですわ。もうずーっと行列ができまして
         ねえ。                                           
        そしたらねえ、乗り場の係の人が体重計を出してきて、
        並んでるお客さんの体重を量るんですわ。私が「何です
        のん、それ」て聞きましたら、何でも赤い線を超えた重
        さの人は乗船を断わってる言いまんねん。それでね、 
        「あんたねえ、何日も前から待ってはる人もいるのに、
        体重の重い人お断りやなんて、それ人権侵害と違います
        のん?」て、食ってかかりましたの。いえね、私もちょっと
   心配でしたのでね。そしたら「いえ、これは生きてた
        時の体重ではなくて、生前の罪の重さを量る機械なん
        です。罪の重い人は、こちらでは体の重さになって現れ
        ますので、乗っていただいたら、船が沈んでしまうんで
        す。それで、あらかじめお断りしているというわけなん
        です。」って言いはりますの。「そしたら、そういう人
        はどうするんですか?」て聞きましたら、「泳いで渡っ
        てください」との回答でございました。             
司会者:いやあ、そうなんですか?いろいろ教えていただいて、
         ありがとうございました。もう、そろそろ時間が参りま
         したので、次の方に移りたいと思います。次は、お子様
         を生後三ヶ月で亡くされた御母様でいらっしゃいます。
         先ほどの方とは反対のケースでいらっしゃいますねえ。
         お名前は?あっ、匿名希望でございましたね。       
母   :そうなんです、何度も流産しかけたのを、やっとのこと
        で生まれましたのに、生後三ヶ月のかわいい盛り、ある
        朝、ふと見ましたら冷たくなっておりました。ウウッ 
司会者:さぞ、おつらかったことでしょう。お察し申し上げます。
        それでは、赤ちゃんのお名前とご命日をご入力下さいま
        せ。 ピポパポピポパ
    ハイ、段々画面に人影が現れて参りましたね。
         あれっ、何だか大人と子どもと二人見えるよう
    ですが・・・
                                                 
保母:こんにちは。私は、お坊っちゃまをエンジェル保育園で
         お育てしております、保母の阿部真理亜と申します。 
         ご覧くださいませ。赤ちゃんだったお坊ちゃまも、もう
         三才におなりになりましたよ。さあ、お母さまにご挨拶
         しましょうね。                                   
子     :ママーーー。元気でちゅか。ボクも毎日保育園で楽しく
         遊んでいまちゅよーー。                           
母   : (テレビを両手で抱えて)ああ、お前にどんなに会いた
        かったか。ああ、お前が生きていたら(テレビにほほを
        付けて)こうやってホッペとホッペをくっつけてスキスキ
        してあげたかった。こうやってホッペにチューもして
        あげたかった。(ななめ抱きにして)こうやって、オッ
        パイも飲ませてあげたかった。(ヨイショと縦抱きにし
        て)こうやって、ゲップもさせてあげたかった。(また
        横抱きにして)こうやって、ネンネンヨ、オコロリヨと
        寝かしつけてあげたかった。それから、(高く持ち上げ
        て)こうやって「高い高い!」をしてあげたかった・・
        オトト                                           
             (と、テレビを落としそうになる)                 
司会者 :あ、お母さん、テレビを落とさないでくださいね。   
母    :すみません。でも、こんなに大きくなって・・そうでし
         たか。先生が、この子のお世話をして下さっているんで
         すね。そちらの保育園で・・ウウウ                 
         (突然、打って変わって)あっ、そしたら、保育料をお
         払いせんとあかんのと違いますの?                 
保母 :いいえ、保育料は要りませんよ。こちらでは、「お世話
         になってありがとうございます」という感謝の念がお金
         の代わりなんですよ。                             
母    :いやあ、そんなんで、よろしいんですか?           
保母:もう、私ら、小さい子、だあい好きですから、お世話は
        全然苦になりませんの。でもね、親御さんの思いによっ
        て、サービス内容が多少変わってきますのでご注意くだ
        さいませ。                                       
母   :あの、サービスと言いますと?                     
保母:ええ、おやつの量とか銘柄とか・・                 
母    :銘柄って、あの、ブルボンとかカネボウとか明治とか
    メーカーのことですか?                             
保母 :そうそう、こちらにもお菓子を作る会社があるんですよ。
        でも、お菓子の多い少ないは、親の思いで変わるんです。
母    :それは又、どういうわけで・・                     
保母:魔法の映画なんかでは、空中からヒュッと物を出してま
        したでしょう?こちらでは、出てこいと念じた物が現れ
        るんです。カルビーのかっぱえびせん出てこい!と念じ
        たら、目の前にえびせんがヒュッと現れるんです。思い
        が、いろんなものの原料になるんですね。お子さまのお
        やつは、親御さんから送られてきた思いを原料にして、
        作っているからなんですよ。ですから、ご自分を責めた
        り悲しんでばかりいるのは、どうかおやめになってくだ
        さいませね。                                     
母   :ああ、そう言うわけなんですか?なるほど。         
       では、これからは「そっちの世界でおいしいもん食べて
       元気に暮らしや」という思いを送らせていただきます。
       へえ、そうですかあ。そちらにも、カルビーのかっぱえ
       びせんがあるんですか?753へえくらいの驚きですね
       え。                                             
保母:いえ、天国では、殺生が禁じられてますので、エビの香
       料がまぶしてあるだけですけどね。正式な名前は、亀田
       製菓のえびせんもどき。                           
母   :先生さっきはカルビーて言うてませんでした?       
先生:えっ、カルビは、やっぱりあかんでしょう、天国では?
母    :それやったら、最初からカルビーのかっぱえびせんを持
        ち出さんでもええでしょうが。まあ、銘柄は何でもええ
        ですけどね、先生、あんまりスナック菓子とか甘いもん
        は、やらんといてくださいね。                     
保母 :大丈夫ですよ。エンジェル保育園では、飲み物は遺伝子
        組み換えなしの豆乳!おやつは、手作りのゴマプリン、
        おからクッキー、大豆の炒ったのとか煮干しに竹輪、 
        大変ヘルシーなものを出させてもらってます。       
母    :あのお、先生、さっき確か煮干しと言われましたけど、
        殺生は駄目なんと違いますのん?                   
保母  : いえ、これは高野豆腐を煮て干したもんです。ウチは、
        精進料理しか出しません。ハイ                     
母    :そしたら、ちくわは?あれは魚のすり身でしたよね? 
保母:ちくわは漢字で書くと竹の輪って書くのご存じでした?
       ですから、タケノコの煮たのを輪切りにしたもんです。
母   :はあ、そうですか。坊や、坊やは何のおやつが一番好き
        なの?                                           
子   :うん、ゴマ豆腐と高野豆腐の煮干し・・             
母   :・・何だか、大きくなったらお坊さんになりそうなメニ
         ューですねえ。                                   
保母:とんでもございません。クリスマスにはエンジェルパイ
        でお祝いします。エンジェル保育園は宗派を問いません。
        いずれにせよ、私たちが、責任を持ってお育ていたしま
        すから、どうぞ、ご安心くださいませね。ではこれで、
         失礼いたします。さあ、みんなのところに戻りましょう。
子    :ママ、さよなら。                                 
司会者 :良かったですね。お子さまが元気に暮らしておられて・
母    :(涙ぐんで)はい、ありがとうございました。       
司会者 :では、次の方に参りましょう。はるばる東北の地より
        お越しの佐藤さんでいらっしゃいます。佐藤さんは、今日
        はどなたとお話をされたいのでしょうか?           
佐藤息子:ハイ、わたすは、この間死んだ、うちのじい様に会いた
         いべ。じい様、山をたくさん持っていだがら、相続税も
         たくさん払えと言われただ。こらあ、山を売らねといけ
         ねべが思うてた時に、ふっと、じい様が「ウチの山ん中
         の一本松の根元に金塊を埋めた」と言うてたのを思い出
         しただ。山ん中言うても、じい様七つも山を持っでだが
         ら、どこっちゃある山のどの当たりに埋めたか、今日は
         聞こうと思って来たんだべ。                       
司会者:亡くなられる前にお聞きにならなかったのですか?   
息子    :じい様、死ぬ五年前から頭がぼけでだがら、死ぬ前に聞
         いてもわからね。                                 
司会者:それでは、おじいちゃまのお名前をご命日を・・     
             ピポピポパポパポ         
息子   :あっ、じい様。じい様。元気だが?                 
じい様  :おお、せがれや。わしゃ、こっちに来てからはピンピン
          してるべ。安心してけれ。ボケも直ったべ。         
息子    :そうかあ、じい様、わしの顔が見えるか?死ぬ前は眼が
          見えんかったべ。                                 
じい様  :見える見える。眼も治ったべ。                     
息子 :そうか、じい様、よかったべ。                     
         ところで、じい様、会うてすぐにこんな話も何じゃけど、
         税務署から、五千万円の相続税を払え言うてきたべ。 
         それで、じい様が山ん中に埋めた金塊、どこっちゃある
         か教えてけれ。                                   
じい様  :金塊?何のことだべが?                           
息子    :ほれ、七年ほど前にワシに言うたべ。               
じい様  :はあはあ、一本松の根っこに埋めた金塊だべ?       
息子    :思い出したべが。で、どこっちゃある山の何合目じゃ?
じい様  :うーん、ワシも忘れんように、語呂合わせで埋めたんだ
          べ。いろいろ候補があっだがら、うーん、どこっちゃあ
          る山だべが?                                     
息子    :ワシに聞いてもろうても知らねえ!どうか思い出してけ
          れ。                                             
じい様  :うーん、夫婦円満に行くように、二番目の山の二合目だ
          べが?                                           
息子    :(メモに書いて)二番目の二合目じゃな。           
じい様:いやいや、「人生行け行けゴーゴー」で五番目の山の
     五合目にしたベが?                                 
息子   :(先のを消してメモに)五番目の五合目かあ!       
じい様:いやいや、何と言ってもラッキーセブンじゃと、七番目
          の七合目にしただべが?                           
息子    :(また消して)あだりめに七番目の七合目かあ?     
じい様:うーん、ちょっと待ってけれえ。                   
息子  :(テレビを両手に持って前後に振りながら)
    じい様、早 う思い出してけれえ・・                           
        あれ、あれれ、じい様の姿が消えた。一体どうしたべ。
        ひょっとして、わしが、テレビを強くゆすったからだべ
        が?じい様ー、じい様ー。どごさ、行ったべ?       
司会:あれっ、通信がとぎれましたか。どうしたんでしょう?
        すみません。ドクター松下を呼んでください。       
ドクター:えっ、どうしはったんですか?                     
司会者:どうもテレビの調子がおかしいようなんです。佐藤さん
         のあの落胆ぶりをご覧下さい。今すぐに修理をお願いし
         ます。                                           
ドクター:(テレビを持ち上げたり裏返したりして)           
         うーん、どうもテレビの故障ではないようですね。   
         ちょっとあの世と交信してみましょう。ええ、こちら、
         この世。こちら、この世。どなたかおられますか?   
         どうぞ。急に出演者が消えたのですが、どういうわけで
         しょうか?どうぞ。                               
         ハー、あ、そうでっか。えらいすんまへんなあ。おおき
         に。あちらのディレクターによると、おじいさんの奥さ
         んがでんな、十年ほど前に亡くなられた方なんですけど、
         息子さんに会いとうて、突然訪ねてみえたようですわ。
         そしたら、おじいさん「ば、ばあ様のユーレイが出たー
         ー」と叫んで逃げてしまいはったとか。             
         そしたら、奥様が「金塊のことなぞ、ワシには一言も言
         わんと・・」と、追いかけて行って、ただ今、スタジオ
         の隅で夫婦げんかをしてはるようですわ。           
                                                         
  ********************
                                        
                                                         
佐藤息子:ああ、やっと見つかったべ。二番目の二合目、五番目の
         五合目を掘り起こしたけど、見つからね。嘘だべがとあ
         きらめとったら、やっと七番目の七合目の一本松の根元
         から出てきたべ。ほんに金塊は重いべ。これしょって山
         どご下りるのは大変だ。何往復もしねえといけね。
         うんだども、これで相続税が払えるべ。じい様も、ようこれだけ
         買い集めたもんじゃあ。                         
隣の主人:ドロボー、ドロボー!                             
佐藤息子:何じゃ。隣村のごん兵衛か、ひとをドロボー呼ばわりし
         て。ここはオレの山だス。                         
隣の主人:こらっ、佐藤のせがれ!ここっちゃある山は、オレが
    おめさんとこのじい様から三年前に買い取ったんだべ。
    ほれ、これが証書だ!                               
佐藤息子:何!おめえ、じい様がぼけてるのをええことに、はんこ
         押さしたか!                                     
隣の主人:さあ、その金塊は返してもらうべ。オラの山から出たも
         んは、オラのもんだべ。                           
佐藤息子:おめさん、金塊が埋めてあるのは知らんかったはずだ。
         知らんかったら、山だけ買うたことになるんだべ。   
隣の主人:違うっちゃ。買うた山に埋めてあったもんも、ワシの
      もんだべ。                                         
佐藤息子:フフフフ                                         
隣の主人:何だ、気味の悪い笑い方して・・                   
佐藤息子:返してもいいが、ほんなら、おめさんが山に金塊を隠し
          てたのを税務署にしゃべってやるべ。               
          ♪言うたろ、言うたろ♪                           
隣の主人:待て。待ってけれ。埋めてあるのを知らんかったら、
      税金を払う必要はねえだ。                           
佐藤息子:うーん、実はオラもこういうケースはどうなるんか、
     知らねえ。今から二人で税務署行って相談すべか?     
隣の主人:とんでもねえ、そしたら金塊のことがばれるでねえが。
佐藤息子:仮に、こういうケースはどうなるべ?と聞くだけじゃあ。
隣の主人:今は納税月間だ。相談室は行列が出来てるべ。
     それに今から行っても日が暮れるべ。                     
佐藤息子:おい、ごん兵衛?そこの木の後ろに誰かいるべ。     
隣の主人:えっ、わしらの会話を聞かれたか!おい、誰じゃ、そこ
          にいるのは?                                     
弁護士  :はい、私は「行列のできる法律相談所」の弁護士です。
佐藤息子:弁護士さんが、なしてこんな山の中にいるべ?       
弁護士  :ハイ、私、昨日放送されました「あの世からこんにちは」
          を見ておりました。それで、もしかしたら、このような
          トラブルも発生するのではないかとピンときたものです
          から、急遽、ここに「行列のできる法律相談所」を開設
          いたしました。                                   
隣の主人:行列の出来るてね、わしら二人しかおらせんが・・   
          でもまあ、ちょうど良かったべ。弁護士さん、さっきから
          わしらの話を聞いてただべが?                   
弁護士 :はい、しっかり聞かせていただきました。           
隣の主人:なら、話は早い。そういうケースは、誰が税金払うべが?
弁護士  そうですねえ。契約書の中身を見ないとハッキリしたこ
         とは言えませんが、基本的には、やはり金塊は、こちら
         のお父様から譲り受けたことになりますから、ごん兵衛
         様が贈与税を支払わないといけませんねえ。         
隣の主人:えーっ、いくらくらい払うべが?                   
弁護士  :金塊が1億円なら、50%の贈与税がかかります。控除
         額の225万円を差し引いて計算しますと、4887万
         と5000円というところでしょうかねえ。             
隣の主人:えーっ、5000万円近うも要るんだべが。ほんたら金はね
           え。                                             
佐藤息子:ごん兵衛よ、モノは相談だども、金塊が埋まっていたこ
         とは内緒にしてける。そっちゃある代わり、その金塊
        1億円で売って、おめさんは5000万円贈与税を払う。で、
        残りの5000万円じゃけど、おめさんなあ、金塊が埋まっ
        てたの、知らんかったわけだがら、オラにくれろ。   
隣の主人:何じゃあ。ほんたら馬鹿な!                       
弁護士  :あのお、私の相談手数料は?                       
佐藤息子:あんたは、ひっこんどけ。ごん兵衛のう、金塊の埋まっ
        てた山を買うたなら、本当は、もっとじい様に支払わね
         えといけねだス。                                 
隣の主人:ちょっと待て、佐藤のせがれよ。ふもとから、たくさん
         の人が登ってくるべ。ありゃ、何じゃ?             
佐藤息子:うん?何じゃ。あれっ、あれれーーーーーっ。       
         あーー、もう手遅れだス。ほれ、マルサの奴らが行列
         作って、こごにやって来るべ!                   
                                                         
    *********************
       (の〜〜んびりしたBGMの中)
ばあ様  :  じい様や                                       
じい様  :何じゃ、ばあ様。                                 
ばあ様  :昨日は、おめさんが隠してた金塊のことで怒ってすまん
          かったのう。                                     
じい様  :いやいや、ワシこそ、おめに黙って金塊を買い集めての
          う。すまんかった。                               
ばあ様  じい様や。それにしても世の中、便利になったのう。 
         あの世のことが、こうやってテレビで中継されるように
         なるなんてのう。                                 
じい様  :ほんにほんに、今朝は、ウチの息子が出ておったのう。
        あの世ドキュメンタリー「金塊を巡る相続騒動」じゃと
       ・・隣り村のごん兵衛と、金塊の取り合いをしておった。
        ハハハ。だども、ワシも罪なことをしたもんじゃ。
     こんなことなら財産を残さなんだら良がっだべ。           
ばあ様  :ほんにのう、あちらに比べれば、こちらの世界は、もめ
       事もなければ、税金もねえ。有り難いことじゃ。     
じい様  :ほんにほんに、極楽じゃ。 

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